イソシアネートの加熱・融解指針

2012年2月ウレタン原料工業会(出典)より

ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の加熱、融解指針

はじめに

本指針は、先に発行した「ドラムの安全取扱指針」の補足資料として、ドラムの加熱方法を説明したものです。特に、取扱に注意を要するジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を例として、そ の具体的な操作方法を記しております。

この指針の内容は、正確且つ信頼できるものと信じていますが、起こり得る全ての状況を網羅 している訳ではありません。万が一、この指針の情報により生じたいかなる損害にも一切保証を 致しませんのでご了承ください。

1.MDI の性質
MDI には 3 つの異性体がありますが、最も幅広く工業的に使用されている 4,4’-ジフェニルメタ

ンジイソシアネート(4,4’-MDI)の物性値は以下の通りです。

       4-4-MDI.jpg

外観:無色から淡黄色固体(38°C以下)および液体(40°C以上) 臭い:ほとんどなし
沸点:300°C以上
融点:38°C付近

引火点:211°C 蒸気圧:6.7×10-4Pa(25°C) 蒸気密度(空気=1):8.5 比重(相対密度):約 1.22(43°C) 溶解度:水に不溶 粘度:4.7~5.0 mPa・s(50°C)

4,4’-MDI は室温では固体で、品質劣化を防ぐために 5°C以下の温度(好ましくは-15~- 20°C)で保管することをお奨めします。固体の 4,4’-MDI を使用する際は、ドラムを加熱、融解して 液体として取り扱うのが一般的です。

2.MDI の反応
MDI は活性水素化合物と接すれば低温でも以下の反応を起こします。

①水との反応

        MDI-water.jpg

②アミンとの反応
        MDI-amine.jpg

③アルコールとの反応
        MDI-alcohol.jpg

また、MDIはある条件下で自己重合し、ダイマー(ウレチヂオン)、トリマー(イソシアヌレート)、 カルボジイミドおよびウレトンイミンを形成します。

④ダイマー(ウレチヂオン)の生成

       MDI-dimer.jpg

⑤トリマー(イソシアヌレート)の生成

       MDI-trimer.jpg

 

⑥カルボジイミド、ウレトンイミンの生成

      urethoneimine.jpg

トリマーやカルボジイミドは、特殊な触媒存在下や高温下でしか生成しませんが、ダイマーの生成は比較的低い温度でも進行します。また、水蒸気との反応によってもウレア化合物が生成します。

生成したウレア化合物やダイマーは、融解した液状のMDIと相溶性が悪く濁りを生じ、品質に影響を与えることがありますので、加熱、融解には細心の注意が必要です。

3.加熱、融解方法 (例として、温水浴を使用する場合の加熱方法を記します)

①浴槽に水を引き、ドラムを下の図の高さ(ドラムの上部が水面から 20cm 出る程度)まで沈めます。水に浸す前に、ドラムの栓が閉まっていることを確認して下さい。また、ドラムの下に水 が循環できるスペースを空けておくことをお奨めします。

              hotbath.jpg

②水浴に蒸気を送入するか電気ヒーターを用いて、温度 70°Cまで加熱します。加熱された温水 浴にドラムを沈めることは止めて下さい。もしドラムを設置する際に、ドラムを高所より落としてしまうと、熱水が飛び散り火傷を負ってしまいます。

③温度 70°Cを維持します。局部的な過熱が起こらないよう温度管理を徹底して下さい。

④ドラムの天板に水蒸気が溜まったら拭き取って下さい。

⑤温度 70°Cの場合、8~12 時間で融解が完了します。

⑥融解完了後は速やかに移液して下さい。高温のまま保持するとダイマーが増加し濁りを生じます。

温水浴の代わりにエアオーブンを使用することも可能です。上記③以降の手順に従って下さい。 但し、オーブンの温度は 80°Cとし融解時間は 20~24 時間が必要となります。

ドラムをシートで囲い蒸気を直接当てて加熱する方法やバンドヒーターで加熱する方法がありますが、この方法は推奨できません。局部的な過熱が起こることはもちろんですが、安全上の問題がありますので、温水浴またはエアオーブンによる加熱をお願いします。

4.ダイマー生成曲線 (温度とダイマーの生成速度の関係を下図に示します。加熱、融解および保管条件の目安として下さい)

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